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岡山地方裁判所 平成6年(ワ)658号 判決 1996年2月19日

原告

羽草功枝

ほか一名

被告

山下晋男

主文

一  被告は、原告羽草に対し、金二八八万七三三七円、原告康に対し、二八八万七三三七円及び右各金員に対する平成五年一二月二三日から支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告ら、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、右一について仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、それぞれ六五〇万円及びこれに対する平成五年一二月二三日から支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件事故

(一) 日時

平成五年一〇月五日午後九時五五分ころ

(二) 場所

岡山県備前市福田六三七番地先

(三) 被告車

普通乗用自動車(岡山五一つ四九七七)

運転者・被告

(四) 原告車

普通乗用自動車(岡山五九つ七七一四)

運転者・原告羽草

(五) 態様

正面衝突

2  原告羽草の傷害

(一) 右側頭部打撲挫創、左肱関節部の筋断裂を伴う挫創、外傷性くも膜下出血及び腹部打撲

(二) 原告羽草は、本件事故当時妊娠四か月であつたため、本件事故による心身に被つた衝撃によつて、平成五年一二月二二日、妊娠二四週、体重七六八gの未熟児で康玉熙(以下「亡玉熙」という。)を早産し、亡玉熙は、同日一五時一四分、早産未熟児による呼吸不全で死亡した。

3  損害

(一) 亡玉熙の逸失利益 二三二五万一二二九円

死亡時〇歳、平成四年の一八歳初任給平均額二〇二万三〇〇〇円、生活費控除三〇%、新ホフマン係数一六・四一九二(就労可能年数四九年)

(二) 慰謝料

亡玉熙の死亡による精神的打撃を慰謝するための損害賠償。

(1) 原告羽草 三〇〇万円

(2) 原告康 二〇〇万円

4  相続等

原告は、亡玉熙の父母であり、亡玉熙の死亡によつて亡玉熙を相続した(相続分各二分の一)。

よつて、原告らは被告に対し、本件事故による損害賠償金の内金として、請求の趣旨記載のとおりの金銭を支払うことを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3は否認する。

亡玉熙は、出産後生存する可能性はなかつたから逸失利益はない。

原告羽草は、帝王切開前、医師から最善の努力をしても生存の可能性がないと告げられており、実際に出産後もそのような状況であつたから、慰謝料の額を定めるについては、亡玉熙が胎内で死亡したか又は死産の場合と同様とすべきである。

仮に、亡玉熙の死因が本件事故に関係するとしても、亡玉熙の流産及び死因の大半は、原告羽草の妊娠を維持し難いものであつたことと、同原告の体質及び右のような事情を踏まえ、損害額の公平な分担及び過失相殺の趣旨を、損害額の算定について斟酌すべきである。

4  同4は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1について。

争いがない。

2  請求原因2について。

争いがない。

3  請求原因3について(円未満切捨て)。

(一)  逸失利益 三七七万四六七五円

甲一~一一、乙一~七、丹羽国泰、同多田克彦の証言、原告羽草本人尋問の結果によれば、原告羽草(昭和二五年生)は、平成元年一〇月ころ、婦人科検診を契機として岡山市内の丹羽病院に通院するようになつたこと、平成三年六月一〇日、同病院で、妊娠三九週で胎内死亡した胎児を帝王切開により死産したこと、平成四年一二月八日に進行流産(胎児が育たずに出血、本件と同様)し、平成四年一二月ころに流産の経験が一回あつたこと、平成五年八月ころから、原因不明の切迫流産の症状のため丹羽病院に通院し、止血剤の注射等による治療を受けたが、九月ころには出血が止まつて症状が落ち着き、本件事故前日の平成五年一〇月四日には、エコー検査の所見等を含め、異常なしと診断されたこと、本件事故直後、救急車で運び込まれた岡山県備前市立備前病院で、頭部の創等の治療とともに、不正出血がみられたのに対応して切迫流産の治療を受け、以後備前病院に入院して外科の診療を受ける傍ら平成五年一〇月八日、一五日、二九日に同病院に関係する産婦人科の医師によつてエコーによる検査を受けた際には破水の形跡は認められなかつたこと、本件事故後一か月くらい経過した後の平成五年一一月一五日前ころに破水した(同原告は、本件事故の直後破水した感触があつた趣旨の供述をするが、同原告が破水の事実を医師に告げたのは一か月経過した後であつたことが認められるから、右供述によつては、前示認定は左右されない。)こと、平成五年一〇月三〇日、入院中の備前病院から外出して丹羽病院で受診し、同年一〇月三一日に自宅で泊まつた後、一一月一日に備前病院に戻り、一一月三日午前に自宅に戻つたこと、同日午後になつて出血したため丹羽病院に行つて入院したが、羊水過少が確認されたため、丹羽病院から岡山大学附属病院に紹介されて転院し、人工羊水補充療法及び抗生物質の投与を受けたが、子宮内感染を起こし、母体及び胎児が危険になつたため、平成五年一二月二二日、胎児である亡玉熙を帝王切開により出産したこと、亡玉熙は、出産後、心拍はあつたが、自発呼吸はなく、四肢のチアノーゼ、筋緊張の低下、反射の喪失が認められるいわゆる仮死態で、約一時間後に死亡したこと、一般的に妊娠二四週の未熟児の生存は極めてまれであることが認められる。

右事実によれば、原告羽草が亡玉熙を早産し、亡玉熙が未熟児による呼吸不全で死亡した原因は、同原告が早産し易い身体的素因を有していたこと及び本件事故による心身に対する衝撃が競合して生じたものであつて、このことと、生存率が極めて低い段階の未熟児であつたこと、本件事故は、被告が時速七〇~八〇kmで蛇行運転したという、被告の一方的過失によつて生じたものであることなどを考慮すると、亡玉熙の逸失利益は、次のとおり、三七七万四六七五円と算出するのが相当である。

死亡時〇歳、平成四年賃金センサス女子労働者学歴計~一七歳年収一六四万二一〇〇円、生活費控除三〇%、新ホフマン係数一六・四一九二(就労可能年数四九年)の二〇%

(二)  慰謝料

前示の一切の事情を考慮すると、亡玉熙の死亡による原告らの精神的打撃を慰謝するための損害賠償は、

(1) 原告羽草 一〇〇万円

(2) 原告康 一〇〇万円

が相当である。

4  請求原因4について。

甲一、原告羽草本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によつて認めることができる。

二  結論

以上によれば、原告らの被告に対する請求は、原告羽草に対して二八八万七三三七円、原告康に対して二八八万七三三七円の各支払を求める限度で理由があるから右限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田亮一)

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